「む、あれは」影丸は東の夜空に光る、銀次郎の合図の星を見つけた。「なにかあったか」走っていく影丸は、途中雷蔵とも合流、星が上げられた場所に到着した。「銀次郎、どこだ」「あれは」雷蔵が指刺した先に数頭の狼が群れをなし、何かを齧っている様子だ。［ボーン］小さな火薬玉で狼を追い払うと、そこには腹を食い破られた銀次郎の死体があった。
「なんという姿に」雷蔵が悲鳴に近い声をあげた。気づくと、2人は何十頭もの狼の群れに囲まれている。2人はすかさず松明に火をつけた。雷蔵は縄も用意している。「ふふふ、おまえらも狼の餌食になれ、日ごろから村人を襲わせて人の肉の味を覚えさせた狼だ」少し離れた小高い丘の上から百狼が狼たちに指示する。［ガウ］襲い掛かる狼を影丸は切り払い、雷蔵は縄で捉えて地面に叩きつける。「影丸、気づいたか」「ああ、狼たちは、どれも均整がとれて、病気のものや傷ついたものも老いたものもいない。飼い馴らされた狼だな」「ということは数に限りがあるということだ」狼と戦いながら相談する2人。「俺に考えがある」雷蔵は松明を手に、狼たちの周囲を何本もの竹筒にはいった油をまいて走る。「やつめ何をする気だ」丘から下りた百狼が、雷蔵に手裏剣を投げる［カキン］影丸が横から手裏剣を投げて、それを弾き飛ばす。「これでよし」雷蔵が地面に松明をかざすと、大きな火の輪が狼たちを囲んで、閉じ込めた。狼たちは混乱してる。火の勢いで風が起こる。火の輪の外側にいた狼たちには、影丸の木の葉が襲ってきた。狼はばたばたと眠る。「こんな、ばかな」たじろぐ百狼に影丸が立ちはだかる。「残忍なやつめ、銀次郎な仇、とらせてもらうぞ」「くそ」刀を抜き、切りかかってきた百狼を影丸は難なく斬り伏せた。
火がおさまると、主を失った狼も去っていく。影丸たちも銀次郎を葬って、その場を去った。
「とうとう、俺一人になったか。」黒潮丸が百狼の骸を見つめ呟く。「木の葉を使う隠密といえば、お師匠の忍別帳に書き込まれてたやつだったな。」黒潮丸を影丸のことを知っていた。「だれだ」黒潮丸が振り向く。「根来でござる。ご家老から、那智流が最後の一人になったら、陰からお守りしろと仰せつかりました」「いらねえよ、こうなったら俺一人であいつらを、ねじ伏せるだけさ」黒潮丸が天を睨む。

夜の帳が降りる頃、次席家老の屋敷とその周辺の長屋を調査してた雷蔵。次の調査先へ向かおうと塀を乗り越えたところへ、手裏剣が飛んできた。［カカカ］なまこ壁に突き刺さる十字手裏剣。「だれだ」雷蔵が振り返る。「相変わらず忍び込みとは、ご苦労だな。だがもうその必要はないぜ。あの世へ行ってもらうからな。」闇の中から姿を見せたのは、岩助だ。「おまえか。火事になると、まずい、場所を変えて受けて立つぜ。」雷蔵が走り出した。「逃すか」岩助が後を追う。草原にやってきた2人。「これをくらえ」岩助が火炎礫を2発飛ばす。「おお」これをかわす雷蔵。「それ。お次だ」また火炎弾が飛んでくる。「もらった」雷蔵が縄を投げて、その火炎弾を打ち砕く。すると、縄に火が点く。「今度はおれの火炎縄術を、受けてみろ。」燃える縄を振り回し、岩助に投げつける。「うぬ」岩助が飛び跳ねて、避ける。「まだまだ」雷蔵が縄を操り、炎を上げる縄は蛇のようにくねくねと複雑な動きを見せる。岩助は手裏剣を投げ縄を断ち切ろうとするが外れる。大きく飛び上がり、着地した場所は、草が無く、地面が黒ずんでいる。「そこへ行くのを待ってたぞ」雷蔵が火炎縄を地面に叩きつけると、目にも止まらぬ速さで火走りが岩助のほうへ向かってきた。「あぶない」［ガガーン］爆発と同時に岩助はとび上がる。しかし降下してきたのは上半身だけだった。［ドサ］上半分の岩助の死体を見おろし雷蔵が呟く。「この草原は、おまえの墓場になるよう、準備しておいたのさ」
少し離れた町はずれの荒地でも、闘いが始まっていた。赤目の銀次郎と英天四郎が数間の距離を置いて向かい合っている。互いにスキをうかがいジリジリと移動する。遠くのかすかな爆発音に天四郎が反応した。すかさず銀次郎がとびかかり手裏剣を投げつける。「おー」天四郎が刀ではね返す。銀次郎と天四郎の距離が離れた。天四郎が白煙を炊く。視界がさえぎられる中、銀次郎は右へと移動する。「ふふ、気様の動き、手にとるように、わかるぞ。それっ」飛んでくる手裏剣を避けながら、銀次郎はさらに移動する。「のがさんぞ」天四郎も移動していく。「これは」足元に銀色の糸が絡みついてる。「おまえには、俺の位置や動きがわかるようだが、俺にもおまえの様子がわかるぞ」もうもうとした煙のなか、銀次郎が告げる。「この糸でな」銀次郎が糸を引っ張ると、天四郎は転倒した。すると、腕や首にもいとが絡みつく。「忍法蜘蛛の巣地獄」起き上がろうとする天四郎。そこへ、いくつもの手裏剣がとんでくる。避けるすべもなく体中に手裏剣を受けた、天四郎。「お、俺の白煙陣が役にたたぬとは。」無数の糸に絡まれたまま天四郎は倒れた。
煙が薄れ、天四郎の死体を銀次郎は確認する。
［ウォーン、ウォーン］「何の声だ？」銀次郎があたりを見回すと、いつのまにか狼たちにかこまれていた。「これは、」［がおー］一頭の狼が飛び掛かってくる。「えい」刀で斬り倒す銀次郎。「ふふふ、この狼の群れに耐えきれるかな」狼たちのうしろに百狼が立っている。「新手の忍者か、影丸たちう呼ぼう」銀次郎が合図を打ち上げた。

黒潮丸が鏡心の前に姿を見せた。「はは、ばかばかしい話だぜ。うちの殿さんとお宅のお偉いさんの勝手な賭け事で命のやり取りだからな。お頭もチンケな餌に釣られて、俺たちを駆り出しやがってな。ま、忍び同士の戦いだ。人質は通じないぜ。」
倒れている岩助に刀を突き付けようとした鏡心だったが、思い直して黒潮丸に刃を向けた。黒潮丸も刀を抜く。「いくぞ」にわかに殺気を漲らせる黒潮丸。2人が同時に切りかかった。［ガキッ］刀を交えた瞬間、背後に回ろうとする鏡心。だが「なに？」黒潮丸の目を見た刹那、急に力が抜け、右手に取り出していた円月鏡を落としてしまった。がくりと膝をつくと、そのまま倒れ伏してしまう鏡心。「ふー、おまえも催眠術使いか。だが、俺の不動睨みのほうが強かったようだな。」そう言って、鏡心から離れ、岩助の縄を解く。その縄を手にして鏡心に語り掛ける。「殺す必要もないな。ふんじばって白浜か勝浦の岩窟牢にでも突っ込んでやる。死んだことにはしとくがな。」そのとき「甘いぞ、黒潮丸」英天四郎がやってきた。倒れてる鏡心に近寄ると「こやつは、おれの術を破ったやつだ、生かしてはおかぬ。」そう言って刀を抜いて、とどめを刺した。「あっ」あっけにとれれた黒潮丸に天四郎が続ける。「殿や統領の命令だぞ。勝手なことはするな。」「わかったよ」黒潮丸が口をとがらせる。「岩助を起こしてやれ」天四郎の指示に従う黒潮丸。そこへ影丸と雷蔵がやってきた。「あっ、鏡心」「よくもやったな。」雷蔵がにらむ。「どうやら、お前らも事情を知ったようだな。今日は、けが人がいるので引き上げるが、日をあらためて決着をつけようぞ」天四郎と岩助を肩に担いだ黒潮丸が姿を消す。
夜になった。城下のはずれの、あばら家で、影丸、雷蔵、銀次郎が相談をする。「俺たちには、紀州公と正雪の関わりを確かめるという使命がある、ここで中断はできん。」影丸が2人に話す。「しかし、降り懸かる火の粉ははらわねば」と雷蔵。「仲間を3人も殺ったんだ、許さん」銀次郎がいきりたつ。「敵は４人だが、2人は得意技がわかってる。そこで・・」３人の相談は続く。「あとの２人が来たら、合図を放つ。それから根来衆や城兵の場合もな。」「そのときは３にんがかりでいこう。ここは敵地だからな」「それじゃ、また武家屋敷を手分けして探ろう、そうすれば、彼らは現れる。」「おう」作戦がまとまったようだ。

房丸に変装してた庄次が走り出す。「逃げるな」鏡心が縄をなげる。縄は庄次の足に絡みつき、庄次はたおれた。鏡心は房丸の様子が変なのに気づき、縄を用意してたのだ。銀次郎も銀網を被せる。その直前に庄次は黒い玉を空に投げ上げた。玉は空中げ光を放つ。「おのれ、仲間を呼んだな」鏡心が短槍で庄次を突き刺す。絶命した庄次が房丸から元の顔に戻る。「すると、房丸もやられたのか」雷蔵が呟く。「ここから離れて、影丸のところへ行こう。敵が集まってくるぞ。」銀次郎がよびかける。「敵のことが気になるが、一旦、山奥へ行くか」鏡心らも同意する。3人は姿を消した。
ほどなく、2人の死体が横たわる場所に、岩助と黒潮丸が到着した。「相討ちか」岩助の言葉に、黒潮丸が「いや、庄次の傷口は槍だ。隠密を1人倒したあと、他の隠密にやられたか。
合図を上げたので逃げたな」と推理すろ。「もう夜明けだ。坊主や信徒もこの辺にくるかもしれん。死体を片付けよう。」黒潮丸の言葉に岩助もうなづき、それぞれが死体を背負って姿を消した。
明るくなった山中で、岩助は探りを入れている。「もう、この辺にはいないか」独り言を言ったそのとき。「ここに、いるぞ。一人になるのを待ってたぞ。」木の上から望月鏡心がおりてきた。「でたな。」岩助が合図の花火の玉を上げようとすると、「アッ」手裏剣が玉を打ち落とした。後ろに雷蔵がいる。「くそ、こうなりゃ一人でも倒してやる」岩助が鏡心に切りかかる。「ばかめ」岩助の刀を難なくかわすと、鏡心は後ろに回って左腕で岩助の首を絞め、右手に小さな丸い銅鏡を持って岩助の目の前にかざす。「よく見ろ、鏡の中のお前がすべてを話せと言ってるぞ。」「うう」岩助は抵抗もできず。両手をだらんと下げて刀を落とした。「誰の命令俺たちを狙う？」鏡心の質問に岩助が答える。「頼宜公が大老酒井様と約束をかわし、隠密６忍と那智流６忍を戦わせ、勝った方が相手に従うことになっている。我々が勝てば、正式に紀州のお抱えになれるのだ。」「おい、ちょっと待て、大老だと、俺たちはそんな命令きいてないぞ」雷蔵が叫んで言った「俺たちにとっても一大事だ。今すぐ影丸に知らせてくる。」「そうか、俺はもう少し聞き出してみる」鏡心はその場に残る。
「何、そんなことがあったのか。」影丸が驚く。「尾州の次は紀州か。この前尾州公のいやがらせにつき合わされ、無二の親友を失ったばかりなのに、今度は紀州公と幕閣の意地の張り合いに巻き込まれているんだ。すぐ、半蔵様に知らせねば。」「俺が堺の隠密につなぎをとる。」銀次郎が申し出る。「まだ鏡心が聞き出してるが、とりあえず急ごう。たのむぞ。」銀次郎が走り去る。
そのころ江戸城では、「酒井殿はどこにおられる。」松平伊豆守が血相をかえて大老を探していた。「そこにおられたか。紀州殿から聞きましたぞ。なんてことをなされるか。忍者を使って賭け碁のようなことをするとは。」酒井が答える「その昔、神君家康公は竹千代、国千代の後継者選びに、伊賀、甲賀の忍者１０人ずつを戦わせたという。わしもこの度の事件の決着を早めるべきかと、紀州公に持ち掛けたら、乗り気になってのう。」「根も葉もない戯言です。隠密たちは同心の身分、れっきとした幕臣ですぞ。かわいそうに、なにもわからずに襲撃を受けてるかもしれない。すぐ半蔵に伝えて中止させますからな。」伊豆の剣幕に酒井も折れた。「あいわかった。だが紀州殿にはもう少し内緒に」伊豆守はさらに尋ねる「どんな賭けをなさった」「わしが勝ったら、紀州殿は身の証を立て、かつ将軍が成人するまで帰国せず政務をたすけると。むこうが勝ったら、幕閣の中のわしら古顔は引退し、紀州殿お気に入りの若い者を推挙すると」忌々し気に伊豆守はそこから立ち去った。
一方紀三井寺裏の山中で、鏡心は岩助を縛り上げて、さらに情報を聞き出しているところだ。「残る忍者の名前と術を聞こうか。」「帰りが遅いと思ったら、こういうことか」黒潮丸が声をかけてきた。

房丸の姿を見た天四郎は何かに気づき、咄嗟に身を伏せた。その上をキラキラ光るものが通り過ぎてゆく。「白面のおまえも伏せろ」天四郎の言葉に、白面の庄次も伏せた。そのうえを通過するのは無数の針だ。房丸は身構えることなしに指先だけで何十本もの針を飛ばすことができた。しかし、感覚の鋭い天四郎には、飛んでくる針が見えていた。『俺の霞針が見破られたのか』房丸に焦りの色が見える。そこへ岩助の火炎礫が飛んできた「おーっ」房丸が飛び上がって、かわすそこへ天四郎と庄次も飛んで、空中で房丸に切りかかる。房丸は自分の刀で天四郎の刃を跳ねのけたが、庄次に肩を斬られた。「うう」肩を押さえ着地したところへ岩助の火炎弾が飛んできて、腹に命中した。「うう、得意の術を封じられ、３人がかりでは、かなわぬか。」房丸は草の上に倒れ伏した。「やったぞ」天四郎ら３人が歩み寄る。「よし、俺がこいつの変装して、残りの隠密もかたづける」白面の庄次が房生の顔を確認すると、庄次の顔が手を触れることもなく変貌した。体型も変わってる。「着物はどこかで調達しろよ」岩助が語り掛ける。「こやつは、紀三井寺の方向へ走ってた。その辺にいれば、ほかの隠密に会えるだろう」天四郎の指摘に「わかった。それじゃ、いってくる。」こう言って庄次は姿を消した。
夜明けには、まだ数刻ある。緋文字が紀三井寺の裏手にやってきた。「集合場所はさらに山奥だな」ここから歩いて進む。「む、だれだ？」そこへ現れたのは房丸に化けた庄次だ。「ほかの者はいないのか」「うむ、俺たちだけだな」庄次は緋文字の接近する。「おい、ちょっといいか」そう言って近づくと短刀でいきなり緋文字の腹を刺した。「な、なにをする。」腹をおさえながら、後ずさる緋文字。庄次は殺気をはらんで刀を抜く。「お、おまえ、房丸じゃないな」「ふふ、気づくのがおそかったな。冥途の土産に覚えとけ。俺は那智流白面の庄次だ」庄次は緋文字に刀を振り下ろした。
少し経って、銀次郎と雷蔵がやってきた。『２人か、まずいな』庄次が考える。「あ、緋文字。どうしたんだ。」銀次郎が叫ぶ。「おれが来たときには、たおれてた。」房丸の顔の庄次が告げる。「だが、それほど血が固まってない。斬られたばかりのようだ」と雷蔵。「とにかく葬ってやろう」「いや、その前に着物を脱がしてみよう。」銀次郎が言った。「え？」「知ってるだろう、こいつの得意技を」銀次郎の言葉に雷蔵が続ける。「そうだ。これで、緋文字は手ぶらで怪しまれることなく関所を通るからな。」『何のことだ』庄次には理解できない。銀次郎が語る、「夕べも、緋文字が一人で出かけた後、心配で俺が後を追った。すると、緋文字あ大鎌の忍者と戦ってるところだった。俺が背後にいたのに気づき、着物を脱いで、背中に蚯蚓腫れのような赤い文字を浮かべて俺に指示した『時をかせぐ、敵のうしろへ回れ』とな、俺は、緋文字が命乞いをしてる間に後ろへまわって敵を捕らえた」庄次が反論する「それは、生きてる間だろ、死んだら見られないだろう」「いや、何か言い残してるかもしれん。しらべよう」鏡心がやってきた。着物を脱がすと黒ずんだ文字が背中に浮かんでる。『房丸は敵の変装だまされるな』

「今戻った。銀次郎の手当をしてくれ。」隠れ家の炭焼き小屋へ緋文字らが帰ってきた。「大丈夫か」影丸が銀次郎の手当をする。「緋文字の心配をして、後から出かけた銀次郎が怪我か？」房丸が尋ねる。「いや、おかげでわしは助かった。恐ろしい敵だが、倒すことはできたしな。」緋文字が答える。「しかし、俺たちの妨害ではなく、命を狙ってると言いおった。穏やかじゃないぞ」手当を終えた銀次郎が告げる。「まて、囲まれてないか？」鏡心が呟く。「5人くらいか」雷蔵が窓から窺う。「俺たちがつけられたか？」と緋文字。「それにしては、遅いが」と言う鏡心に対し「ここを突き止めた後、仲間を呼んで準備したんだろう。油断するな」影丸が促す。影丸の言った通り、緋文字らを発見した黒潮丸が尾行して炭焼き小屋を発見し、仲間に知らせ、準備をしてきたのである。小屋を取り囲んだ5人は各々火筒を手にしてる。これを打ち込んで一網打尽にする作戦だ。「うて」天四郎の合図で一斉に火筒が撃ち込まれた。［ドカーン］小屋が跡形もなく吹き飛んだ。
「はて、死体が転がっていないな。」天四郎が爆破した跡を探る。「む？」足元に穴があいてる。「抜け穴か。気づいて逃げたな」百狼が穴にはいって様子をうかがう。「だいぶ遠くまで掘ってある。この辺にはいないかもしれんぞ。」戻って報告する。「くそ」天四郎が地面に耳をあてる。「半里先を忍者の足で走ってる者がいる、今なら間に合う。よし、わしと岩助、白面の庄次で追いかける。黒潮丸と百狼は、この辺の捜索を続けろ。何かあったら合図しろ」天四郎らは姿を消した。影丸たちは、すでに予め掘ってあった抜け穴から少し離れた林の中へのがれ、ここで紀三井寺の裏で落ち合う約束で散開したのだった。
房丸が、荒れ野の中を紀三井寺を目指して走っている。「うん？」何か気配を感じ立ち止まる。行く手に天四郎が立ちふさがる。左右には庄次と岩助が囲んでいる。「隠密め、今度は逃さないぞ。」「ふん、そう、うまくいくかな。」房丸が不適に笑う。

緋文字が夜中の街道を紀州の北のはずれまでさしかかったとき、何か大きな物体が回転しながら飛来してきた。「おおっ」緋文字が飛び上がって、これをかわす。異様な物体は空中を大きく曲がって元の場所へ戻る。［ガシッ］これを大男が受け止める。それは大きな鎌だった。もう一方の手にも大鎌を構えている。「こんな時刻に街道を忍者の歩みで行くものは幕府の隠密だな」「おまえはだれだ」「那智流忍者蟷螂鬼よ」鎌を手に緋文字に迫る、「そうか、影丸たちをおそったやつらか」「死んでもらうぞ」蟷螂鬼が大鎌を振りかざす。「はー」緋文字が飛び上がる。周辺の立ち木がことごとく切りたおされた。「戦うしかないか」鎖の両端に鉄球がついた双流星堆を振り回す緋文字。「イヤーッ」蟷螂鬼に投げつける。「おうりゃ」蟷螂鬼が大鎌を一振りすると、鉄球が真っ二つに割れた。「こ、これは」「そんなもが通用するか」蟷螂鬼の言葉に緋文字がたじろぐ。「まて、降参だ。とてもかなわぬ。」武器を捨て、刀も地に置く緋文字。「この通り丸腰だ。身に着けてるものも外す。」着物を脱ぎ、上半身裸だ。「これでどうだ、それでも殺るのか」「わしの使命はおまえらの命を奪うことだ。情け容赦はかけぬ。覚悟して念仏でも唱えろ。」蟷螂鬼が大鎌を振り上げる。「まて、もう少し考えてくれ、何も抵抗せんから」「うるさい」蟷螂鬼が大鎌を振り下ろそうとしたその瞬間、上から銀網が降り注いできて、蟷螂鬼を包み込んだ。「何だ、これは」鎌を持ったまま手足に自由を奪われる。「間に合ったな緋文字。おまえの指示どおりにやったぞ。」蟷螂鬼の背後の樹上から銀次郎が呼びかける。「おう、すまんな。助かったぞ」緋文字が応える。「く、くそ」蟷螂鬼が抵抗するが、網が彼を益々締め上げ、もう身動きもできない。「さっき物騒なことをほざいてたな。誰の命令だ、仲間はどのくらいいる。」銀次郎が蟷螂鬼に語り掛ける。「うう、教えてやる。木から降りて、こっちこい」蟷螂鬼の言葉に銀次郎は下へ降り、そばに寄る。「あぶない、離れろ」緋文字の叫びに飛びのく銀次郎。次の瞬間［ドカーン］大爆発が起きる。地面に伏せた緋文字が起き上がる。硝煙が漂い、網の中には大鎌とちぎれた手足肉塊が山となっている。「銀次郎っ」少し離れた場所で銀次郎はうつ伏せに倒れてる。「大丈夫か」助け起こす緋文字。「ああ、もう少しで道ずれにされるところだった」「けがをしてるな、火傷も。小屋へ戻って、手当をしよう。」「大したことはない。」「いや、ここで敵にまた襲われたら、遅れをとる。肩につかまれ」2人は元来た道を引き返す。
「今の爆発音はなんだ？」少し離れた林のなかで索敵してた黒潮丸が、蟷螂鬼の自爆の音を聞きつけた。

白煙囲まれた鏡心に正確に手裏剣が飛んでくる。「おーっ」これをかわすと、そこへ白刃が襲ってくる。［ガキッ］短槍でこれをはねのける。後ろからも刀がのびてくる。「うわ」咄嗟によける鏡心。天四郎の姿は見えない。「俺には、奴の姿が見えんが、奴には見えるのか。」鏡心は手裏剣を避けつつ考えた。「よし、もっと見えやすくしてやる。」松明に火をつけると、そこへ手裏剣が飛んできた。「おっと」鏡心は松明を何本にも分けて。地面に刺したり、立ち木の幹に刺したりする。松明のほうに手裏剣が刺さったり、立ち木の松明が刀で切り落とされる。松明を持って飛び上がる影がある。「そこか」天四郎が姿を現し、一刀のもとに、その影を切り裂く。［ドサ］地面に落ちたそれは、松明を括り付け羽織を着けた丸太だった。煙が薄れていくと、鏡心の姿はない。「逃げられたか」天四郎が呻く。「俺は、煙のなかで、僅かな呼吸や熱を感知して攻撃してたのだが、松明で台無しになった。幕府の隠密さすがだ。殿が根来衆よりも我々を用いたのも、わかる。」
鏡心は元の屋敷の前へ戻ってきた。「房丸」「どうした、息を切らして」房丸が姿を見せる。「ここから離れる、あいつら俺たちの命を狙ってきたぞ。」「ええ？」「今までとはちがう忍者が襲撃してきた。他の連中もやられてるかもしれん」「わかった」2人が姿をけす。
少し離れた草原では、影丸が岩助と戦っていた。火炎礫を飛ばしてくる岩助。影丸はこれをかわしながら風上に回ろうとするが、岩助はそれをさせない。「よせよせ、根来の連中から聞いたぞ、体がしびれる木の葉が飛んでくるとな。我ら那智流は子供だましにはやられんぞ。」岩助が不敵に笑う。「むむ。こうなったら意地でも風上に回ってやる。」「そうはいかん。」再び火炎礫を投げようと構える岩助に、手裏剣が飛んできた。「だれだ」岩助が振り向く。鏡心らが駆けつけた。「3人か、まずいな」火柱があがり岩助がきえた。「すまん、たすかった」影丸が礼を言う。「見通しのきく草原にいたから、すぐわかったぜ」房丸が影丸に近づく。「敵は戦法を変えてきた。油断すると命を落とすぞ」鏡心がつげる。「一度戻って、作戦の練りなおしだ」
3人が姿を消した。
「なに、そんなことがあったのか」緋文字が驚く。彼と銀次郎は敵に遭遇しなかったようだ。「とにかく、手紙で今までの調査結果を報告し、那智流とやらについて半蔵様に尋ねよう。」緋文字が炭焼き小屋を出て、堺へむかう。

闇に篝火がつけられ、６忍の顔が明らかになった。其々が自己紹介する。「百狼でござる。」長い髪を束ね、前髪で片目わ隠した瘦せこけた顔の男がまず名乗る。「英　天四郎と申す」総髪で髷を結った侍姿の忍者が名乗る。「岩助。」月代に髪を後ろに束ね、左目に黒い眼帯をしている。「某は白面の庄次」ざんばら髪にこれといった特徴のない顔立ちの男だ。「黒潮丸です」乱れた髪を後ろに束ねた精悍な顔の若者。「わしは蟷螂鬼」背中に２丁の大鎌を背負った坊主頭で左右の毛が逆立った細身の大男である。
「以上６名の那智流忍者が、殿のご期待通りの働きをいたします。」夕灯斎が頭を下げると、６忍の姿が消えた。「わが藩の名誉のため、たのむぞ。」水野が声をかける。
この夜も隠密の調査は続く。房丸と望月鏡心が小姓頭の屋敷にやってきた。「おっ、また敵が現れたようだ。」鏡心があたりを見回す。「よし、こっちは俺が聞き受けた。おまえは調査にかかれ。」鏡心が声を上げる。「さあ、俺が相手をしてやる。おや、今日は１人で来たのか？」姿を見せたのは、英天四郎だ。「ふふふ、根来の連中から聞いてはいたが、飽きもせず、のこのこと家臣の屋敷にやってきたな。今日はいつものようにはいかんぞ。」天四郎は刀の鯉口を切っている。鏡心は短槍で突きかかる。天四郎は抜刀して、これを打ち払う。２人は間合いをはかりつつ、走って荒地に出た。対峙する２人。すると天四郎の周囲から白い煙が上がり、天四郎を包み隠し、さらにあたり一面煙に覆われた。「むむ、なにも見えんな」戸惑う鏡心。「ふふふ、忍法白煙陣」天四郎の声が不気味に響く。

炭焼小屋を囲む山林の、鳥の声が響く。［ホウホウ］「お、影丸の合図だ。」「来てくれたか」先発の３忍が影丸たちを迎える。「いやあ、よくきてくれた。」緋文字が影丸の手を握る。「半蔵様から話は聞いた。紀州の忍者は、我々をからかっているのだろう。これからは、２人一組で行動する。一人が敵忍者を引き受け、もう一人が探りを入れる。」影丸の作戦に一同が頷く。その夜、影丸と雷蔵は、勘定奉行の屋敷に来た。「ここの長屋に住む家来の多くは、半年前に雇われた改易された他藩の浪人者たちらしい。忍び込み、家系図や紹介状を探して身元を調べよう。」影丸の言葉が終わらぬうちに、「むっ、囲まれてるな、」雷蔵が身構える。「よし、俺が敵を引き付ける。おまえは潜入しろ。」影丸が敵忍者たちの前に身を躍らせた。「凝りもせず、やってきたな、追え」走ってゆく影丸のあとを、何人もの忍者がつけてゆく。「来たな。それっ」影丸は木から木へと飛び移る。敵忍者たちも、それを追う。「やはり、追ってくるだけだ。攻撃をしてこないな。よし、やってみるか」木々の中を飛び回る影丸が木の葉を散らしていく。その下を敵忍者が飛び交う。すると一人また一人と地面に落ちていく。「みんな、しびれ薬にやられたな。半日もすれば目を覚ますだろう。」そう言って影丸は元の場所へ戻る。雷蔵も屋敷の中から出たきた。「どうだった？」「いや手がかりになるものはないな。正雪の部下はいないようだ。」「そうか。いなければ、それに越したことはない。今日は帰ろう。ほかのみんなも、うまくやってるかな。」影丸たちは引き上げた。
江戸城では、大老酒井忠勝が、お庭番に話を通し、半蔵を呼び出していた。城内御用の間の前の庭に半蔵がやってくる。「半蔵、久しいのう。」「はっ。酒井様もお変わりなく」半蔵が頭をさげる。廊下に立って酒井は半蔵んい尋ねる。「のう、伊豆から聞いたが、紀州に忍びを送り込んでるそうじゃのう、何人じゃ？」「只今６にんほど。」「腕は立つのか」「精鋭ぞろいでございます。」「なら、儂のほうから密偵を出すこともないのう」そう言って部屋の奥へ去った。
数日後、紀州の家老水野のもとに書状が届いた。「これが殿の御指図か？」顔を曇らせる水野に用人が答える。「そのようでございます」「気が変わられたのか？」そう言って［パンパン］手を叩くと忍者があらわれた。「およびでございますか」「こちらへ」水野が耳打ちする。「では、直ちに」忍者は姿をけした。夕刻になり庭先に数人の男がやってきた。
「夕灯斎（せきとうさい）お召により、参上いたしました。はげた頭に周囲に長い白髪を垂らした、僧形の仙人のような風貌の老人がかしこまっている。その後ろに６人の黒い人影がならんでいた。

和歌山のはずれの森で落ち合った。「あぶないところを、すまなかった。」房丸が礼を言う。「いやあ。実は俺も忍者に追われてな。うまく、まいたが気になって、おまえのところへ行ってみたのだ。」銀次郎が答える。「俺も、探りを入れにいった屋敷に忍者がいて、近寄れなかった。」と緋文字が告げる。「まいったな、お抱え忍者がこんなにいたとは。俺たちの行動は読まれてたのだろうか」「対策を立てなければ」「うーむ」3忍は考え込む。
紀州藩家老水野重良は新宮に支城を持つが、藩主頼宜の留守中、和歌山城内の屋敷にとどまっていた。朝早くに、庭先に一人の忍者が訪れ、座敷にいる重良に前夜の出来事を報告する。「うむ、殿の予想通り、隠密の忍者どもが送り込まれてきたか。ご苦労だった。昨夜は首尾よく追い返したようだな。けが人は手当をして養生させよ。今夜以降も適当に脅かして、追っ払え」「はっ」小頭格らしき忍者は一礼して去った。
「ま、いずれ、あきらめて帰るだろう」重良は一人呟く。
翌日も同じような攻防となり、３人の隠密は山中の炭焼き小屋で額を突き合わせている。「奇妙だな、今、思い起こすと奴ら、手裏剣を投げるでもなく、切り込むでもなく、ただ追ってくるだけだった。」「そうだな、こちらは、針を投げて攻撃したが、向こうからは、あまり殺気を感じなかった。」「ただ、俺たちを追い払うだけなのかな。」「ともかく。これでは仕事にならん。一応、報告するか」緋文字は城下を出て堺に赴き、ここの商家に住み込む草の忍びに手紙を託した。
知らせを受けた半蔵は、さらに３人の隠密を送ることにした。座敷の庭先に、つむじ風に木の葉が舞い、影丸が姿を見せる。つづいて肩まで髪を伸ばした総髪に短槍を背負った侍姿の望月鏡心が樹上から降りてくる。奥には、整った顔立ちに髪を後ろに束ねた雷蔵が控える。「よく来た。お主らには、和歌山で難儀をしている３人を手助けしてやってほしい。」「わかりました。お安い御用です」鏡心が笑顔で応じる。「では早速」影丸らは出発する。

正雪の乱ののち、その遺品から紀州徳川頼宜の書状が発見された。折しも江戸に滞在していた紀州公は幕閣に呼び出され、その書面を突き付けられるも、一蹴し、申し開きも無かった。そのころ紀州藩は、幕府の武断政治に反発し、その仕置きで大量に生じた浪人たちを多く召し抱え、正雪に加担した門弟も多く含まれていて再起を図っているとの噂もあり、紀州公には謀反の嫌疑もかけられていたが、本人は動じる様子もなかった。
あれから2年も過ぎた承応２年春。松平伊豆守の屋敷に一人の旗本がおとずれた。側用人中根正盛、伊豆守と同じく、正雪のもとに密偵を放ち、その動きを探索してた人物である。
「この度、紀州藩に正雪の門弟をかくまっているとの疑いで詰問の使者をおくったところ、留守を預かる家老に一喝され、ほうほうの体で逃げ出し、大坂奉行所に駆け込み、役目を全うできなかったことを恥じて腹を切ろうとしたのを、奉行が遺留したとにこと。今のままでは調査もすすみませぬ。」「頼宜公は、先の将軍がみまかった折に、我ら幕閣が殉死も隠居もせず、新将軍のもとに居続けていることが気にくわぬらしい。まだ家綱様は幼いのに、このままでは幕府の屋台骨が揺らいでしまう。なんとかせねばのう」「半蔵殿に依頼できませぬか。」正盛が提案する。「そうじゃのう。」
半蔵が屋敷に３人の隠密を集めた。赤目の銀次郎。ざんばらｎ紙に鋭い目つき顔の左に傷跡のある、大柄の男だ。房丸は少し小柄でギョロっとした目の神を後ろに束ねた若い忍者。あと一人の緋文字は黒覆面に細い目を見せている中年の忍者
である。
「お主らには和歌山に向かい、新規に士官した家臣をしらみつぶしに調べ上げ、正雪との関わりの証拠を見つけ出してほしい。」半蔵は続ける。「疑わしきことがあれば、些細であろうと報告せよ。」「はは、それではいってまいります。」３忍は、一礼すると、そのまま姿を消した。
３忍は街道を馬を飛ばす。「かなり根気のいる仕事だな。」馬上の銀次郎が話しかける。「まあ、お役目だからな、」と緋文字。「それにしても紀州は殿様も家来も頑なな連中揃いのようだな。でも俺たち忍びが証拠を掴めば、ぐうの音も出ないだろう。」房丸が笑う。
和歌山城下に到着すると、３忍は手分けして早速、家臣の素性を調べ始めた。満月の夜、武家屋敷の塀の屋根に這いつくばる房丸。「ここのあるじは、去年召し抱えられたのか。」
既に眠りに就いているらしく雨戸が閉まってる。「おい、盗人か」通りのほうから声がした。こちらも忍者と思しき黒覆面の男が、房丸に声をかけた。「いけない、見つかっちまったか」房丸は走って屋敷の屋根へ飛び移る。「曲者め逃がさん」覆面の忍者があとをつける。「うまくまかなければ。アッ？」房丸の左右にも数人の忍者が囲むように走っている。「くそ」房丸が何かを投げつけ。「うっ」１人がのけぞった。吹き矢につかうような張りが何本も刺さっている。林のなかまでやってきた房丸。「さあ、次はどいつだ」と身構える。手の中には、何十本もの針が仕込まれている。それを取り囲む忍者たち。そこへ細い針金のような糸が何本も降り注ぎ忍者たちの体に巻き付き、自由をうばった。「今のうちににげろ」樹上から銀次郎が声をかける。「おう、すまない。」房丸が姿を消す。銀次郎もその場から飛び去った。
「おのれ、もう一人いたのか」まきついた糸をはずしながら、黒づくめの忍者が吐き捨てた。

四部の公儀の七人の内、個人的には片目、式部、雷天はどうか？と思う。
それで、四部開始時点での七人を、次の三人と入れ替えてはどうか？と思ってしまいます。
十六夜幻之丞、嵐月之助、村雨十郎太なんかはいかがでしょう？
源太郎も三部より更に成長、天真も捨てがたい。
こんな感じで膨らませてみませんか？

書き始めた時にあったのは、陰流を伊那谷にすることだけでした。理由は、正雪の行き先地図に天竜川を越えない、そこに伊那谷ならば忍者がいてもおかしくない、と薦めたわけです。
地理的に尾州公の勢力の及ぶ東端、真田と尾州公をくさびのように打ち込む精妙な位置。駿府城からしたら、これらが連動したら江戸への脅威。伊豆も捨て置けないとしたわけです。
弥九郎は死体の姿の描写はなかったと思うので、蓮台寺ならば蘇生術もかくや、尾州公に向かう蓮台寺のくすぐりを入れ、ならば村雨兄弟のニセ影丸もありか、と筆は滑りに滑った。
月村の技、月針は特異体質で雪女みたいに瞬時に零下１０度以下の体温に返歌できる、としたら大気中の水分を瞬時に無表情対にするのも可能かとした次第です。
同様に水鏡も破壊的攻撃性をもたせたらどうか、というものでした。
盛り込み過ぎて、式部、片目は顔見せだけになってしまったのが残念です。術が浮かばないのが難点です。
勝信を氏真みたいな高家としたのは、「影武者徳川家康」で大御所が駿府を舞台に秀忠とやりあう、ならば駿府こそは将軍の治外法権地、そこに睨みを利かせられるのは、血筋に弱い日本人にうってつけの勝頼が一子に高家として駿府城に巣くう魑魅魍魎ににらみをきかせては、と思った次第です。
七部の前に影丸と邪鬼の邂逅があった方が話はスムーズに進むかと思ったまでです。
またH・Kさんも何かお願いします。
土蜘蛛党の残党とか。

伊豆は重々しくも笑顔で次のように述べた。
「武田勝信さまは、今川氏真さまと同様の高家のお方として幕府を支えて下され。ただし、表立ってはなにかと難しくもあり、この駿府のお城にあって大御所の残された威風、遺訓を絶やさぬようご精進下されませ」「ワシは幕府に仕える気はないぞ」と勝信。「はい、幕府に仕えて頂くのではのうて、高家として武田家の家訓、風情などを伝えて頂ければ幸いに存じます」「ならば、勝手が通るのじゃな」「御意」
「続いて、伊那谷の陰流の者たちよ。正雪に加担せしことは問わぬ。真田と尾州公にくさびを入れるよう、幕府を助けて欲しい。各地に散ったおなごのこともお構いなしといたす。呼び戻すもよしじゃ」「幕府に仕えるといわれても」と困惑を隠せない多門に影丸も「そこにいて下さるだけで、真田と尾州公がつながることはありませぬ。そこにいて下さればそれでよいのです」「なんかようわからんが、多門殿悪い話じゃなさそうじゃ」とは弥九郎。「幻之丞よ、ご苦労であった、伊豆も礼を言うぞ」
こうして勝信は駿府城の奥まった部屋で高家として生きながらえた。陰流の者たちは、そこにいて真田と尾州公が手を組む動きにくさびを打ち込むこととなった。
影丸は喧騒の駿府城をそっと抜け出した。
「やはり近くにおったか？」「さすが影丸、ようわかったのう」影丸は邪鬼と一連のことを話し込んだ。「敵をも受け入れる懐の広さ、幕府はよりよい政治を行うものとみた。お前のその活躍、好敵手として嬉しく思うぞ。また機会があれば会おうぞ」「その時は手加減せぬっぞ」と影丸も悪戯っぽく笑って答えた。

天井がミシミシと音を立てて破れたと思ったら、二人の男が組み合ったままで落ちて来た。二人とも互いを離せない。
多門は叫んだ「お前は弥九郎、死んだのではなかったか？」や九郎は答える。「確かに俺は死んだ。だが、月村さまの兄者、蓮台寺さまによって、蘇生できたのじゃ。なんでも、死後間もない時間に偶然通りかかったからなんとか蘇生できたとか。」
影丸も同時に叫んでいた。「ああツ、お前は邪鬼、どうしてここに」声は同時に錯綜する。
多門が叫ぶ「弥九郎の影ぬいにかかれば、身動きできないぞ！」その声を機に、スーッと蝋燭の火が消された。
辺りは漆黒の闇、その中を蝋燭を手裏剣で全て消し去った男は弥九郎に手をかけ、邪鬼と引き離した。「弥九郎とやら、闇では影ぬいとやらも使えまい」「好きにするがいいさ」と弥九郎はふてきうされたように言う。「影丸、また会うこともあろうぞ」「待て、邪鬼なぜお前がここに来た？」「この弥九郎とやらと梅ヶ島温泉で一緒になり湯治しておった。こやつは蘇生の養生で、わしは夜叉王に負わされた傷が意外と深手でな、それで湯治が長引いた。昨日、何気なく外を見やると、影丸、お前の姿が見えた。ところが、この弥九郎、そそくさと宿を後にし影丸を追いかけていくではないか」とここで一息入れて、「よく見ると、一行に勝頼さまが一子、勝信さまもいるではないか、弥九郎め、なにかよからぬことを考えてか、と思い駿府の城まで来たわけよ」
一連の話を聞いていた伊豆がよばった。「まずは灯をつけよ。弥九郎とやら、蘇生した命、粗末にするでない。お前は正雪とともに亡くなった。ここにいる弥九郎は伊那谷を守る男、そうじゃな多門」「ははつ」「邪鬼とやら、不死身の邪鬼と影丸から聞かされている、若葉城の遺恨はもはやあるまい。追わぬゆえ、いずこへとも去られるがよい」
と、闖入者の二人を伊豆はうまくあしらった。

月村は一人のまま、包囲網を抜けようと更に上空から月針の雨を降らせた。この雨は梟の急襲に驚き騒ぎ立てる野ネズミに次々突き刺さっていった。伊賀者は大地に伏せたので難を逃れた。「甚内、月村の目を襲わせろ」と幻之丞が叫ぶや、梟が一斉に月村の目を目がけて攻撃し始めた。「今だ！」と一斉に襲いかかったものの、白羽丸は月村の太刀に絶命した。鋭い剣先、だがその隙に幻之丞は胴体を深く切り裂いていた。こうして、月村以下の闇一族も倒された。

影丸一行を追いかけている忍者は尾州公が雇っていた忍者。「ああ、どうしたことだ！みんな消えていく」霧丸が影丸、勝信は右門、伊那谷の者に十郎太が扮していた。彼らは、ナナフシで樹上に消えていった。
尾州公の忍者群は、見えない者からの手裏剣の雨で全員倒された。

ここは駿府城の大広間。
「おお、影丸、ご苦労じゃった。こちらは武田勝信さま、そしてこなたは伊那谷を総べる岩見藤斎が一子、岩見多門殿。お初にお目にかかる。余は松平伊豆守じゃ。」「はは、お目通りかたじけない。いかにもそれがし、武田勝頼が一子、武田勝信」

「しっ！」と影丸は天井に目をやる。

７日〜８日は城崎温泉に夫婦旅してました。明日、お通夜、4明後日告別式とハードです。

さて、闇夜なら源之亟。「善鬼、右手十歩の所に本体あり。白羽丸、垂直に刀を下せ！そして闇丸とやら刃の雨はいかが」と言い様切り結んだ。白羽丸の下した刀の下で、土中のむじな丸が絶命した。善鬼が十歩先に飛び様銅を払うと髑髏丸が深手を負った。
今や月村一人も同然。そこを伊賀者が囲んだ。そうして包囲網を縮めていく。と、「忍法、菊小紋」と言うや、月村が薙ぎ払った草原の小菊は空中で向きを四方八方に変え、それ自体が一個の開店する歯車みたいに包囲網に襲いかかった。
先頭に立っていた、須走の小平治は全身を血だらけにし絶命した。残りは異変を感じ、近づかなかった。
月村一人とはいえ、度重なる攻撃に輪を狭められなかった。
闇丸の仕掛けた闇も消えていた。
その頃、東海道を急ぐ影丸らを追跡する忍者群があった。

だが、勝信を頂く影丸は伊豆との接見場所である駿府のお城まで指呼の距離に迫っていた。
「フフフ、霧丸頼もしいぞ。よくおれに似せて引手受けてくれた。十分引き付けたらナナフシで逃げるが良いさ」
月村は叫んだ「お主、夜目が効くのか？」「いかにも、真昼のように見え申す」とニッコリ微笑んで見せた。
「では、くらえ」と月村は両手を水平に構えた。すると、月針が水平方向に無数に飛び掛かって来た。
それを甚内は、梟に襲わせあわてふためいた雀の群れに月針を刺さらせた。「かわいそうに」と源之亟が呟いた。

突然、天竜川にドーンという大きな音とともに巨大な水柱が乱立し始めた。それは周囲を圧迫し始めた。佐久間戸口にいる忍者全員に等しくこれは襲いかかった。虚空から聞こえてくる「フフフ、忍法水柱、及び水鏡」という霧雨水月の声だ。水月は藤斎の密命を受け、勝信さま、影丸らを救出すべく、大技を見舞ったのである。水月の全身が放つ電気エネルギーが川底に当たる、その反射で凄まじい勢いで水柱が立つ。しかもこれらの水柱は、水鏡ともなっていて真田も、陰流も自身を見るだけだ。
「サッこちらへ」と水月は、テレパシーで影丸に囁き、無人の一角を指し示した。
勝信、影丸はその声を頼りに無人の獣道を佐久間目指して向かった。
数分後、全身の力を使い果たし、風前の灯の命だった水月は、救援に向かった伊賀者に救われた。
闇一族は蜘蛛手丸を失い五忍。背後から襲った陰流も源蔵を欠いて五忍。彼らを、一手に引き受けて立つのは、音羽の源蔵、須走の小平治、梟の甚内、十六夜源之亟、善鬼、飛び加藤の末孫の白羽丸である。

水柱が収まるや、上空に梟が集合し、甚内の指笛で的確に闇一族、影流に襲いかかった。そこに手を取られた隙を逃さず、彼らは襲いかかった。
梟の甚内、音羽の源蔵、須走の小平治は陰流を襲った。闇一族には、十六夜源之亟、善鬼、白羽丸が当たった。
六郎太は音羽の源蔵の鋭い太刀を浴び倒れた。梟に手が取られ、気も散漫だった。首領格の六郎太が倒され、水月に見られたことで陰流は戦意を喪失し、戦場を去った。
闇一族の首領、蓮台寺の弟、月村（ゲッソン）は陰流の離脱者に、「忍法、月針＜ゲッシン＞」と唱え、空中から無数の針の雨を降らせ、ことごとく絶命させた。「裏切者は許さじ」とつぶやいた。
善鬼に髑髏丸が襲いかかった。「忍法、しゃれこうべ」と、無数の骸骨が一斉に善鬼に襲いかかった。辺りが急に黒く掻き曇って「忍法、闇夜」と叫んで、闇丸が十六夜源之亟に襲いかかった。辺りは暗闇だ。白羽丸には、ましらの平助とむじなの三郎が連携攻撃を始めた。

尾州公の思惑はこうだ。真田を引き入れ、伊那谷を引き入れる。そうして、尾張と境界を接する地域の元締めとして勝信を据える。こうして旧武田家臣団＆尾州公の力は駿府を圧迫し、甲州からは幕府と駿府の分断を可能にするという壮大なものだった。
だが、尾州公は知らない。あの日、影丸と藤斎の話し合いの中身を。「影丸よ、ワシに密かに抗する者が少なからずいる。そやつらは真田と通じておる。勝信さまを奉じて尾州公との連立は旧武田家臣団を糾合されらば幕府は一大事ぞ。彼らは、天竜川の屈曲が激しく山が迫る、佐久間戸口で挟撃して来よう。今、江戸に知らせ至急迎撃態勢をとられよ」と密談していたことを知らない。

下栗の里を出立して四日。迎撃態勢は十分に整っている。
そうとは知らない、闇一族らは先廻りをし、陰流の者は影丸らを背後から急襲せんとした。

と、ギャァーという叫び声を上げ、先廻りしている闇一族の一人、蜘蛛手丸が血しぶきを上げてドォと倒された。
これにひるんだ瞬間を影丸らは見逃さず、背後から襲おうとしていた伊那谷の源蔵が袈裟懸けに切り裂かれた。
　これを合図に、前方、後方、入り乱れての争いとなった。